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2005.05.30

5/30 『奇術師』読了

『奇術師』(クリストファー・プリースト著/早川文庫刊)読了。

超常現象の取材ばかりをさせられているジャーナリストのアンドルー・ウェストリーは、彼宛に取材要請の手紙を送ってきた女性ケイト・エンジャから、思いも寄らない話を聞かされる。おたがいの祖先は生涯ライバル関係だった天才奇術師で、彼らの確執は今の自分たちにも影響を与えていると言うのだ…。

久々にグイグイと引き込まれる傑作ファンタジー。いや、SF…かな?まあ、そんなジャンル分けなどどーでも良い。

物語は5部から構成されている。
アンドリューとケイトの現代の出会い、アルフレッド・ボーデン(アンドリューの祖先)が書いた「奇術の秘法」と言う書物、ケイトの回想、ルパート・エンジャ(ケイトの祖先)の日記、そしてエピローグ。

形式的にはアンドリューが主人公になっているが、実質的な主人公はアルフレッドとボーデン、2つの手記の書き手である。一方が遭遇した、あるいは起こした出来事の数々が、他方から見れば全く異なったものとなり、それが確執や憎悪を拡大させていく。どちらもそれぞれの言い分があり、同じ出来事の印象が違うことで、読者はそのときその時でどちらにも感情移入したり、混乱させられたりする。特にルパートの日記を読んでいると、度々アルフレッドの書いた本を読み返すことになる。
「あれぇ?アルフレッドはこの時に何って言ってたっけ?」
作者は意図的に噛み合わない部分を作って、読者を深みに引きずり込んで行く。それは主人公2人のちょっとしたボタンの掛け違えが、確執の深みに引きずり込んでしまったように。

物語の核となるのは2人の奇術師の演目である。一方は「新・瞬間移動人間」。そしてもう一方は「閃光の中で」。どちらも名前は違えこそ、演者が瞬間的に別な場所へ移動するトリックである。互いに相手のトリックのネタが分からないし、読者にも分からない。そしてクライマックスでその謎が分かったときに、あっと驚かされる。それが非常に気持ち良いのだ。

物語を読み始めた時には、“ちょっと変わったミステリ”くらいの印象だったのが、結果的にはちょっと驚くダーク・ファンタジー……ある意味ではトンデモ的な物語になっている。
してやられましたな。

世界幻想文学大賞受賞作品で、「このミス」の2位だそうだ。

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